漆黒の闇に浮かぶ月 38
<38>
夜7時を過ぎた頃、インターホンが鳴り、母親が応対に玄関まで行くと、玄関先でおじさんとおばさんの声がしてきた。
促される様に、リビングにおじさんとおばさん、そして後ろから荘司が入ってきた。
俺が、車イスをそちらに向けると、
「こんばんは。淳平君。久しぶりね。」
おばさんが懐かしそうにそう話した。
俺は言わなくてはいけない言葉を、何度も昨日から繰り返していた。
その言葉を、言おうと大きく息を吸い、俺は両手を握りしめる。
「はい、お久しぶりです。おばさん、おじさん、荘司・・。俺・・・みんなに言わないといけない事が・・・。」
俺の言葉を遮る様に、おばさんが俺の車イスの前に腰を落とし、膝を付くと、俺の握りしめた拳を優しく包み込むように手を乗せる。
「淳平君。いいの。分かっているから・・。淳平君の気持ちは、お母さんからちゃんと聞いているから・・・。おばさんも、おじさんも、淳平君をちっとも恨んでなんか無いのよ。だから・・・謝ったりしないで・・・。」
「・・・おばさん・・。でも、俺のせいで・・亮ちゃんが・・・。」
「ううん。それは違うわ。淳平君のせいではないのよ。亮司が・・・あの子が望んで貴方を守ったの。その亮二の想いを、私達はキチンと受け取らなくてはならなかったのに・・・。今まで、忙しさにかまけて、会いに来る事が出来なかった・・・。」
おばさんはそう言うと、目頭をそっと押えた。
愛しい息子を亡くしたというのに、俺に会いに来れなくて、謝っている・・・。
「いえ、俺の方こそ、会いに行くべきでした。本当は、亮ちゃんの墓参りも、行くべきなのに・・・。」
俺は、その言葉を口にして、改めて自分が亮ちゃんに対して、何もしていないと気が付かされた。
「それはいいの。きちんと美智子さんが・・・。」
おばさんはそう言って、母親の方に向くと、立ち上がる。
「ありがとうございます。美智子さん。あなたのおかげで、私達は亮司に寂しい思いをさせなくてすみました。」
その言葉の意味が理解出来ず、俺は母親の方を見る。
「いえ、当たり前の事ですよ。久美子さんに頼まれなくったって、私達は、亮司君の為とあれば、なんだってします。淳平君を救ってくれたのは亮司君ですから。それに、兄弟同然に育った子です。私達にとっても、可愛い息子の一人でしたから・・・。」
母親の言葉に、おばさんもおじさんも、瞳から溢れる涙を止める事は出来なくなっていた。
お互いが抱き合い、慰め合うように、ひとつになる。
泣き声だけがリビングに響き、俺の瞳からも大粒の涙が零れ落ちた。
その時、ふと気が付くと、荘司が俺の横に立っていた。
「・・・淳平・・・。オレも、お前を憎んでなんかいない・・・。」
自分達の両親を見つめたまま、荘司は口だけを動かしながらそう言った。
「荘司・・・。」
その瞳には涙が浮かび、零れ落ちているのを堪えているかの様な荘司を見上げ、言うべき言葉が見つからず、ただ前を見続けている荘司を見つめていた。
「さあ、ご飯を食べましょ〜。お腹がすいたでしょ〜?」
母親がそう言うと、みんな泣き笑いの顔になり、テーブルに腰掛ける。
6人が揃ったテーブルには、笑顔が戻り、いつしか・・・あの事件がある前の時の様な温かさがよみがえっていた。
俺の心の中には、さっき荘司が言っていた言葉が、何度も繰り返しこだまする。
―――本当に・・・?本当に、俺を恨んではいないのか・・・?
―――大切な、大切なお前の兄貴を奪った俺を・・・・。

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夜7時を過ぎた頃、インターホンが鳴り、母親が応対に玄関まで行くと、玄関先でおじさんとおばさんの声がしてきた。
促される様に、リビングにおじさんとおばさん、そして後ろから荘司が入ってきた。
俺が、車イスをそちらに向けると、
「こんばんは。淳平君。久しぶりね。」
おばさんが懐かしそうにそう話した。
俺は言わなくてはいけない言葉を、何度も昨日から繰り返していた。
その言葉を、言おうと大きく息を吸い、俺は両手を握りしめる。
「はい、お久しぶりです。おばさん、おじさん、荘司・・。俺・・・みんなに言わないといけない事が・・・。」
俺の言葉を遮る様に、おばさんが俺の車イスの前に腰を落とし、膝を付くと、俺の握りしめた拳を優しく包み込むように手を乗せる。
「淳平君。いいの。分かっているから・・。淳平君の気持ちは、お母さんからちゃんと聞いているから・・・。おばさんも、おじさんも、淳平君をちっとも恨んでなんか無いのよ。だから・・・謝ったりしないで・・・。」
「・・・おばさん・・。でも、俺のせいで・・亮ちゃんが・・・。」
「ううん。それは違うわ。淳平君のせいではないのよ。亮司が・・・あの子が望んで貴方を守ったの。その亮二の想いを、私達はキチンと受け取らなくてはならなかったのに・・・。今まで、忙しさにかまけて、会いに来る事が出来なかった・・・。」
おばさんはそう言うと、目頭をそっと押えた。
愛しい息子を亡くしたというのに、俺に会いに来れなくて、謝っている・・・。
「いえ、俺の方こそ、会いに行くべきでした。本当は、亮ちゃんの墓参りも、行くべきなのに・・・。」
俺は、その言葉を口にして、改めて自分が亮ちゃんに対して、何もしていないと気が付かされた。
「それはいいの。きちんと美智子さんが・・・。」
おばさんはそう言って、母親の方に向くと、立ち上がる。
「ありがとうございます。美智子さん。あなたのおかげで、私達は亮司に寂しい思いをさせなくてすみました。」
その言葉の意味が理解出来ず、俺は母親の方を見る。
「いえ、当たり前の事ですよ。久美子さんに頼まれなくったって、私達は、亮司君の為とあれば、なんだってします。淳平君を救ってくれたのは亮司君ですから。それに、兄弟同然に育った子です。私達にとっても、可愛い息子の一人でしたから・・・。」
母親の言葉に、おばさんもおじさんも、瞳から溢れる涙を止める事は出来なくなっていた。
お互いが抱き合い、慰め合うように、ひとつになる。
泣き声だけがリビングに響き、俺の瞳からも大粒の涙が零れ落ちた。
その時、ふと気が付くと、荘司が俺の横に立っていた。
「・・・淳平・・・。オレも、お前を憎んでなんかいない・・・。」
自分達の両親を見つめたまま、荘司は口だけを動かしながらそう言った。
「荘司・・・。」
その瞳には涙が浮かび、零れ落ちているのを堪えているかの様な荘司を見上げ、言うべき言葉が見つからず、ただ前を見続けている荘司を見つめていた。
「さあ、ご飯を食べましょ〜。お腹がすいたでしょ〜?」
母親がそう言うと、みんな泣き笑いの顔になり、テーブルに腰掛ける。
6人が揃ったテーブルには、笑顔が戻り、いつしか・・・あの事件がある前の時の様な温かさがよみがえっていた。
俺の心の中には、さっき荘司が言っていた言葉が、何度も繰り返しこだまする。
―――本当に・・・?本当に、俺を恨んではいないのか・・・?
―――大切な、大切なお前の兄貴を奪った俺を・・・・。
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