<33>
荘司side流れる月日・・・。
凍えそうな木々に新しい命が芽吹き、いつの間にかそれは新緑となって輝き出す。
吹き抜ける風にも、温かな命が含まれ、人々の気分さえどこか浮足立っている春がやってきた。
あれから、殆ど毎日のように訪れる翼さんに、オレはどれだけ救われたか・・。
夕食はいつも一緒に食べてくれ、土日には一日一緒に居る。
まるで、本当に兄貴が戻ってきてくれたみたいだった。
―――束の間の幸せ・・。
だが、幸せになればなるほど、自分が許されていい人間なのか、自問自答する。
就職を期に、オレは住み慣れた家を出る事にした。
兄貴や淳平の思い出がたくさん詰まったあの家を出る事は、オレにとっては辛かったが、翼さんが、逆に一度立ち直る為には、必要な事だ。
・・・と、そう言ったから、オレは会社の近くにマンションを借りる事にした。
新しい生活にも慣れ、割と近くに住んでいた翼さんも、頻繁に訪れてくれる。
新開コーポレーションは、社長一代でこの地位にまで築きあげ、今では押しも押されぬ大手の広告会社だった。
毎日、流される様に仕事をこなし、覚える事も沢山あり、社会人としての役目と、義務を果たすので精一杯だったオレは一瞬だけだが、兄貴の事も、淳平の事も、記憶の片隅に押しやられていた。
そのくらい仕事は面白かったし、やりがいもあった。
まだまだ、駆け出しの新人だったが、周りに居る先輩に付き、与えられる仕事はどれも新鮮で、自分の中にまだこんな気持ちが埋まっていたのかと思うほど、毎日が楽しかった。
毎日仕事に追われるような生活をし、いつしか季節は巡り、そして夏がやってくる。
その頃には、もう一通りの仕事が出来、小さな仕事を任されるまでに至っていた。
翼さんも、オレの成長ぶりを喜んでくれ、小さな仕事なのに、初めて任された時には、お祝いだと言って、食事に連れて行ってくれた。
そんなあからさまな愛情表現にも、ようやく慣れ、オレは翼さんが喜んでいると、嬉しささえ湧いてくる。
どんどん変化するオレの心と体。
その変化に時にはついていけず、苦しくなる時もあるが、その時には必ず翼さんが傍に居てくれた。
ある日、オレは翼さんにこう聞いた。
「翼さん。毎日うちに来てくれるのは有難いんだけどさ・・。翼さんは、彼女とか居ないの・・?大丈夫?」
そんな俺の問いにも、
「クスッ・・。大丈夫だよ。お前が心配する事じゃない。やる事はちゃんとやってるし・・・。」
そう言って、二コリと微笑む。
どう見ても、彼女が居る様には見えなかった。
だって、休みの日はオレと一緒に居るし、平日も仕事が終わると、殆どオレの家に来る。
オレと食事をし、仕事の話で盛り上がり、オレがベットに入るのを見届けてから、部屋を出ていく。
こんなオレにどうしてここまでやってくれるのかも、聞いた事があった。
「俺が、やりたいからだよ・・。」
翼さんはそう言っただけだった。
だけど、その翼さんの瞳には、多分、兄貴が居たんだ・・・。
翼さんは、あの夢に出てきた兄貴の、最後の言葉を、忠実に守っている。
それはまるで、本当の青木亮二の様に・・・・。

↑↑↑
ランキングに参加しています。ポッチを押して下さいな♥
theme : 自作BL小説
genre : 小説・文学